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Papen's Piling

自分が興味を持った事柄に関するまとめ TwitterID:Papen_GaW

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石川淳・安藤浩和とは何者か(8/8更新)

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出典:社長が訊く『毛糸のカービィ』

 本編の『カービィシリーズ』の音楽を形作るのは、石川淳・安藤浩和のコンビです。今回は2名の分析について行っていきます。私は音楽の知識が乏しいので専門的な話はできません。ですので、総合的なものに留まります。また、最初の章で話しますが、毛糸以前の細かな分析はやりません。というよりできません。

※この記事もロボプラのネタバレがあります。ご注意下さい。

8/8…8月7日に設定したフォーマットに従って、内容を一部変更しました。

分析に入る前に

 特別な事例を除くと、ゲーム会社のスタッフは滅多に出てきません。特にサウンドスタッフは顕著で、石川淳は『星のカービィ』から関わっているのにも関わらず、インタビューに応じたのは社長が訊く『毛糸のカービィ』しかありません。安藤浩和も最近になって(正確には『毛糸』以降)、インタビューやサウンドセレクションに付属するブックレット、miiverseのスタッフルームを通じてコメントを残すようになったため彼らがそれまでの作品で何をしてきたかを探るのはまず不可能です。

 よって、ここでは『毛糸』(安藤は『大乱闘スマッシュブラザーズDX』の公式サイトに少しコメントが残されている)以降の作品に限定して分析を行っていきます。資料の関係上、石川淳は『TDX』や『ロボプラ』の曲の独自考察も入ってしまいますがご了承下さい。

石川淳

1990年、HAL研究所に入社。同社PD事業部サウンドチームに所属。千葉県出身。男性。血液型はO型。
『星のカービィ』シリーズのBGMを第1作目の『星のカービィ』から担当。「カービィサウンドの創設者」。

出典:石川淳 - カービィWiki - Wikia

 『カービィシリーズ』では『初代』、『夢の泉の物語』、『星のカービィ スーパーデラックス』、『カービィのきらきらきっず』(GB/SFC)、『星のカービィ3』、『星のカービィ64』、『星のカービィ 夢の泉デラックス』、『カービィのエアライド』、『タッチ!カービィ』、『星のカービィ 参上!ドロッチェ団』、『星のカービィ ウルトラスーパーデラックス』、『毛糸』、『星のカービィWii』、『星のカービィ 20周年スペシャルコレクション』、『星のカービィ トリプルデラックス』、『星のカービィ ロボボプラネット』に関わっています。

 初代から関わっているということは当然ですが、あの「グリーングリーンズ」や「デデデ大王のテーマ」を生み出したのも彼となります。カービィサウンドの創設者とカービィwikiで言われているがまさにその通りです。まずは、そんな彼について分析を行っていきましょう

その1:ポップで軽快

みんなで決めるゲーム音楽ベスト100 wikiの石川淳の項目には

手がける曲は、担当するゲームがほのぼのした雰囲気のものが多いため、それに準じたポップで軽快なものが多い。しかし、時にはどこか奥深くも悲しげな曲を作ることもあり、ゲームの印象に厚みを持たせている。

(みんなで決めるゲーム音楽ベスト100まとめwiki - 石川淳)

と書かれています。確かにこのような点もあります。しかしこれを近年の作品と照らし合わせると、矛盾が生じてきます。『TDX』で彼が作曲・編曲し曲名が判明しているものを挙げてみましょう。

  1. 浮遊大陸の花畑
  2. 光なき暗雲
  3. はずんでデンデン♪
  4. 奥のカガミで笑う影
  5. 黄金の神話
  6. 怒れる天の山々
  7. カービィファイターズ!
  8. 月影の帝都セクトラトア
  9. 美の監獄
  10. 王位の復権:D.D.D
  11. Dirty&Beauty
  12. よみがえる最強の影

 「浮遊大陸の花畑」や「はずんでデンデン♪」はポップで軽快で、奥深くも悲しい曲は「奥のカガミで笑う影」が当てはまるでしょう。ただ、緊張感に包まれる「光なき暗雲」やワブステップを駆使した「怒れる天の山々」、フロラルドに来たことを実感させる「月影の帝都セクトラトア」、「美の監獄」。美と支配に執着した女王との戦いに使われる「Dirty&Beauty」などそのような原則に当てはまらない曲が多いです。

 確かに『3』の曲(石川のみ参加)はポップで軽快、奥深くも悲しい雰囲気が感じ取れますが、エアライドのスチールオーガンやタチカビの数々の独特な曲、ドロシア戦、「銀河最強の戦士」を聞くともう1つの彼の素顔が見えてきます。

その2:異世界を通じた"カービィらしさ"の開拓者

彼はカービィサウンドの創設者であり、作った音楽には意識しなくてもカービィらしさが出てきます。。サウンドスタッフの1人でもあった池上には

たぶん、この2人はとくに考えていないと思うんです。
素でつくったものが『カービィ』の曲になるわけですから。

出典:社長が訊く『毛糸のカービィ』

と言われ、続けて彼は

で、“カービィらしい曲”ということでは
僕もすごく悩んでいるんですけど、
「“カービィらしさ”とは何でもあり」なんですよ。
自由さというか、何でも受け入れるというか・・・。

と言いました。石川は池上のこの考えに対し

これはあくまでも個人的な感覚なんですが、
わたしは初代の『カービィ』から曲づくりをしてきて
その次の『夢の泉の物語』を安藤さんがやって、
この2つで“カービィらしさ”の基本形みたいなものができてしまっていて、
その後は、池上さんが言うような“何でもありのカービィ”が
続いていくんですけど、そこに「ユーモアがあるか」ということも、
“カービィらしさ”だと、わたしは思っているんです。

続けて

はい。『カービィ』なのに、派手なロックが鳴っていたり、
『カービィ』なのに、壮大なオーケストラが鳴っていたり、
『カービィ』なのに、生音が鳴っていたりと
驚いていただくために、いろんなことをするんですけど、
どこかでクスッと笑いが出るような“ユーモア”を感じられるよう
曲づくりをしてきましたので。

このように発言しました。

 派手なロックというのは「銀河最強の戦士」が該当するかも知れません*1。ギャラクティックナイトはポップスターから見れば異世界の者になりますが、彼はそういった"ポップスター出身ではない者"を通じてカービィらしさを広げているのではないかと感じました。いきなりメタルな曲がポップスターで流れるのは違和感があるかも知れませんが、逆に言えばポップスターでなければ問題はありません。

 今に限らずとも、昔から彼はダークマター族を通じて「VS.ゼロ」や「VS.ゼロツー」を、『64』の様々な惑星の環境から「こうじょうけんがく」を生み出し、"ポップスターとは違った世界とそこから生まれた者の雰囲気"を作っていきました。メタナイトの逆襲の時のシリアスなBGMも、それと似たような観点から創りだされたと見るのはおかしいとは思えません。

 何より、カービィサウンドの創設者である彼が、様々な曲を作っていけば後のサウンドスタッフは「そういう曲もいいんだな」と考え、"カービィらしさ"の萎縮を抑えるという効果もあります。ちなみに異世界を強調する以上、フレーズの活用は滅多にないようです。「スチールオーガン」や「支配してアゲルヨォ」、「Dirty&Beauty」、そして「VS.プレジデント・ハルトマン」でグリーングリーンズやカービィ凱旋の一部は聞こえてこないからです(一応ハルトマンでは社歌は流れましたが)。

安藤浩和

 1991年、HAL研究所に入社。同社PD事業部サウンドチームに所属。千葉県出身。男性。血液型はA型。

出典:安藤浩和 - カービィWiki - Wikia

 『カービィシリーズ』では『夢の泉の物語』、『2』、『カービィボウル』、『きらきらきっず』(GB/SFC)、『64』、『夢の泉DX』、『エアライド』、『参ドロ』、『USDX』、『毛糸』、『Wii』、『20周年SP』、『TDX』、『カービィファイターズZ』、『デデデ大王のデデデでデンZ』、『ロボプラ』に関わった方です。

 『ロボプラ』ではリードサウンドとなり、名実共にカービィサウンドのメインとなっりました。彼については「速報スマブラ拳!!音楽スタッフ座談会」で貴重な資料が見つかりましたので、そこから説明していきます。

その1:打ち込み特有の急激なスピードの変化

 『スマブラDX』のオープニング曲をオーケストラ演奏する際に彼の特徴は浮かび上がっりました。同社のサウンドスタッフの1人でもある酒井省吾のこの発言を見てみましょう。

そうか。
 それで僕は覚悟を決めたんですけど、その覚悟が3日後くらいに揺れたんですよ。
 2日目まではスタジオをおさえたりミキサーの人に連絡をとったり、オーケストラの人を決めたりですごく忙しくて、安藤さんの曲の分析を一切していなかったんですよね。
 それで、安藤さんの曲を見てみたらテンポがすごくて。
 小節ごとに、場合によっては拍ごとに、テンポが全く変わってしまっていて。
 これはマズイなと思って、安藤さんに抗議の電話をしたんですよ(笑)。
 どういうことになっていたかというと、例えば、150キロのスピードで走っていたクルマが、ある線を越えた瞬間に120キロにスピードを変えるのは絶対無理なんです。
 手前から徐々に減速して、線を越えるときに120キロのスピードにすることならできるんです。
 でも、安藤さんの譜面は、そういった急激なスピードの変化を人間の演奏に求めていることになるので、それは絶対に無理だと思って。

出典:速報スマブラ拳!! : 音楽スタッフ座談会

 変拍子とよく言われるのは石川の方ですが、安藤もその影響を受けてか酒井に指摘されるほどの変拍子癖が付いていました。打ち込みの特徴たる「人には再現できない音楽の作りやすさ」もそれに加わっていることでしょう。しかし近作の安藤の作曲したものにはそうでないものもあります。それを象徴するのが『デデデンZ』です。

『デデデでデンZ』はゲームの関係上、どうしてもリズムを合わせなければなりません。つまり、彼がリズムを合わせる音作りができたからこそ生まれたゲームとも言えます。では、彼はいつからそれも考えるようになったのでしょうか?

その2:毛糸から始まった、生音の重視

 打ち込み、つまりDTMで作られる音楽が安藤のメインでした。例えば彼が編曲した『スマブラDX』のグリーングリーンズについて酒井はこう言っています。

グリーングリーンズ!あれはオーケストラだと思うよね。
 あれは安藤さんの曲だよね。

出典:速報スマブラ拳!! : 音楽スタッフ座談会

わざわざ「思うよね」と言っているということは、DTMで作られたという証拠になります。それだけ彼は打ち込みにこだわっていたでしょうし、自分の作曲家としての道はそこにあるのだと安藤は考えていたと言えます。しかし、『毛糸』で安藤はこのような発言をしました。

今回、ハル研側でつくらないといけない曲は、
石川さんと2人で半分ずつを分担して制作にあたったわけですけど、
冨田さんがすでにつくられていたサウンドというのは、
わりとピアノが主体のサウンドで、音の種類が厳選されていて
とてもあたたかみのある感じだったんです。
そこで、僕たちもそれに合わせて、機械的ではないサウンドを
目指してみようと思いました。
先ほども言いましたように、これまで、ゲーム音楽には
どんどん重厚さが求められてきたように思うんです。

出典:社長が訊く『毛糸のカービィ』

機械的ではないサウンドというのがまさに生音を活用したものになります。

そうなんです。なので今回は少ない音にして、
少ないからこそ、1つ1つの曲の特徴が
はっきり聞こえてくるようにしたいと思いました。
そこで、コンピューターに機械的な打ち込みをするのではなく、
わたしは個人的にベースやウクレレなどを弾いたりすることもあるので、
自分の手を使って曲づくりをしようと思いました。

 ウクレレは筆者の貧弱な耳では聞き取れませんでした。ただベースは『TDX』のサブゲーム、「大王のデデデでデン」で使用されているデデデ大王のテーマや『ロボプラ』のサンドキャニオン3(1:08から2:01の間)で利用されています。生音を使う以上、人が弾くことになりますのでリズムを合わせなければいけません。毛糸以降、彼の音楽は従来のDTMと生音が融合し、新しいカービィサウンドを築いていると言えるでしょう。『デデデンZ』が作られたのは彼の作風が大きく変化した際の副作用が影響していると筆者は思います。

その3:シナリオと連動した曲

 『Wii』や『TDX』、『ロボプラ』のオープニングや、ムービー、エンディングの曲を担当するのは安藤です。『ロボプラ』のオープニングである「宇宙からのファーストコンタクト」では

  1. ポップスターの日常(平穏)
  2. 接近する未確認飛行物体
  3. 気づくデデデ大王(とワドルディ)&メタナイト、気付かないカービィ(転調、電子音が徐々に目立つ)
  4. 機械化しんりゃくプロジェクト開始(社歌&星の夢第一形態)
  5. 地表の機械化と同時に鳴る電子音
  6. 反撃(メタナイトの逆襲)
  7. 城の崩壊とハルバード撃墜(星の夢第一形態)
  8. 目覚めるカービィ(グリーングリーンズ)

となっており、効果音や演出と並行して曲が変化しています。ムービーの連動はシナリオとの並行を意味し、彼がそういった曲の作成に強いことを示唆していると思われます。また、そのような特徴を持つため、ある曲をイメージ元としそのフレーズなどを活用しながら別の曲を作るといったことも彼は行っています。

プロジェクト初期に、既に作っていたある曲の「オクターブ上昇し、下降していくフレーズ」が特徴的で、これが 今回の象徴である「大空に伸びていくワールドツリー」のイメージに合っているなぁ!と思いました。

 

そこで今回は、この曲や最初のステージ曲「浮遊大陸の花畑」をベースに他の曲を作ることで「トリプルデラックスっぽさ」を演出したのです。

 

たとえば、ボスや、ビッグバンすいこみは、「浮遊大陸の花畑」のアレンジですが、そこから「狂花水月」(サウンドルーム102番)や、104、124番を「アレンジのアレンジ」しました。エンディングなどは、そのさらにアレンジです。

 

……で、その「今回のイメージの元」となった曲とは、実は「ボヨヨンバッタン・ファクトリー」(23番)のことです。 こういった曲のつながりも意識しながら遊んでもらえたらうれしいです。

出典:Miiverse - イシダ's post | Nintendo

フレーズを活用するというのは石川にはほとんど見られない特徴です(ほとんどと言うのは1から10まで彼の曲を分析していないため)。先程紹介しました『ロボプラ』のオープニングでも社歌や星の夢第一形態、メタナイトの逆襲、そしてグリーングリーンズのフレーズが流れます。後にこれらが曲として流れることにより、今回のシナリオがどういうものかをプレイヤーに植え付けていこうとする努力が見られます。

その4:専属故の強み

 これは石川にも言えることですが、安藤が他のゲームで楽曲のみを提供することはありません。彼はあくまでもHAL研究所専属のサウンドスタッフですので、関わる以上はゲームのサウンド全てに携わります。サウンドにはBGMだけでなく、効果音も含まれている。Miiverseの『TDX』のスタッフルームでは

どんなゲームでも、サウンドと言えば「BGM、音楽」のことがまずは頭に浮かぶと思いますが、実は、我々の仕事の大半は効果音を作ったり、調整したりすることのほうです。

 

特に最近のゲームは、登場キャラや仕掛けなども多く、そのひとつひとつが何種類もの効果音を必要としますので、1本のソフトに 1000種類以上の効果音があることも普通になってきています。 だから自分でも、どんな効果音を作ってきたかの把握が難しくなることもあったりして。

 出典:Miiverse - イシダ's post | Nintendo

と発言しています。ラスボス戦の演出とHPゲージの「ピピピピピピ…」という音が見事に重なるのは、彼が最初からそういう調整をしているからでしょう。『ロボプラ』でアレンジされたダークキャッスルも、ステージ中のトラップの「シャン…シャン…」という音と組み合わさっています。こういった、場に合わせた曲を作ることができるのも専属故の強みが大きく寄与しています。

結論:石川淳・安藤浩和とは何者か?

 どちらもカービィサウンドを古くから支えている、メンバーの中でも古参に入る方です。出身(どちらも千葉県)、作風など共通する点はありますが、石川は創設者としてカービィらしさを常に開拓し、安藤は生音と打ち込みのハイブリッドを武器に、作品のシナリオに沿った曲の作成に力を入れています。特にフレーズの活用は大きな違いであり、石川は曲が曲として完結していますが(星の夢第二形態は除く)が、安藤は効果音や演出、プレイヤーの心境などを組み合わせて「曲」としています。

 ただ、これらの違いは『Wii』以降になって表れたものであり、2人が作曲家として今も成長をしているという証拠になります。(ディレクションなど開発の責任者が両者の違いに気づいたのかも知れないが)

今後も彼らがどのような曲を作っていくのか、注目していくべきでしょう。

*1:社長が訊く『毛糸のカービィ』の公開時点でこの曲は既に知られていました。